理想の最期

僕は、人生は一冊の本のようなものだと思っています。
最後のページを書き終えたあと、校正を終え、
「できました。これでOKっす。」
で、校了。
これにて一生を終えます。

そうなると、今際の際は、ラストシーンに該当します。
ストーリーの中で、めちゃくちゃ重要です。
子供の頃は、その瞬間をリアルに感じることはできませんでした。
しかし、年を重ねるにつれ、同年代の友人との別れも経験し、
自分の最期をリアルに考えるようになってきました。

もちろん、自分で選択できるものではないのでしょうが、
お遊びとして考えてみたことがあります。
それは、こんな理想の最期です。


財産はすべて家族に残し、
家族、友人、お世話になった全ての方に別れの挨拶を済ませる。
爆音で「ラストエンペラーのテーマ」が流れ、壮大に見送られながら、ロケットタクシーに乗って運転手と二人きりで宇宙へ。

地球が一望できるくらい地球から離れたところに到着。
「運転手さん、このへんで大丈夫です。」
「本当にいいんですか?」
無言でうなずく。

「お代は、すでに奥様のほうから頂いております。ではまたのご利用を…と言いたいところですが、
その願いは叶いそうにありませんね。では、幸せな旅を。」
「ありがとうございます。では、運転手さんもお気をつけて。」

宇宙服を着て、そっとロケットタクシーの外へ。
宇宙空間にぷかぷかと浮かんだまま、地球に向けて速度を早めていくロケットタクシーに大きく手を振った。
すると、つかまるものが何もないので、手を降ったことで重心部分にあたる腰を中心に体全体がすこし回転する。
それがちょっと面白く、手と足を上手く使って、身体を一回転できるかどうかしばらく試行錯誤。
若い頃なら簡単にできたのだろうが、歳のためもう身体の関節が思うように動かない。
数十秒後、見事一回転を達成。その瞬間、こんな状況下で俺は何をやってるのだろうと、笑ってしまう。

ふと地球の方角に目を向けると、ロケットタクシーが見えるか見えないかまで遠ざかってしまったことに気づき、
強烈な後悔に襲われる。
運転手には届かないとは分かっていながら、渾身の声を振り絞って叫んでみるが、無意味に終わる。
そして、ヘルメットの中に、合成音声が流れてくる。

「あと、3分です」

まだ少しだけ時間はあるようだ。
耳をつんざくような静寂の中、ただただ何もない真っ黒な空間をぼーっと眺めながら、
生きている間に起こった出来事を、ひとつずつ思い返していく。
幼少時代、少年時代、青年時代、成人、そして家族をもち…
そこで、今までに感じたことのないほどの感謝と、生の喜びを感じる。
自然と涙がこぼれてきた。

「あと、30秒です」

最新の医学は凄い。秒単位で正確な時間を教えてくれる。
現在の年齢に至るまで、人生を全て振り返ろうと思ったのだが、あと30秒では少々無理そうだ。
「過去を振り返るのはやめた。頭を空っぽにして、無我の中で最期を迎えよう。」
そして、目を閉じて、考えるのをやめる。

心が落ち着き、ふと目を開けた瞬間。
地球の美しい佇まいが、目から飛び込んできた。
俺は、なんて美しいところで生まれ育ってきたのだろう。

圧倒的孤独。
それと同時に、圧倒的絶望が襲いかかってくる。
そして。
おそらく、もうすぐ。

「なるほど」と、
誰に言うでもなく小さくポツリとこぼした瞬間。

老衰死。


です。
なかなか難しいと思いますが、こんな最期を迎えられたら最高です。

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