立ち会いリモート・レコーディング・システムについての考察

東京(オフィス樋口四ツ谷スタジオ)と福岡(いいかねPalette)をつないでボーカルの遠隔レコーディングをやりました。
かなり快適に立ち会いREC作業ができましたので、自分への備忘録も兼ねて、遠隔RECシステムを紹介します。
もし、これより効率や品質がいい方法があれば、ぜひ教えて下さい。

東京にはディレクターやクライアントがいて、僕がいる福岡にはエンジニアとボーカリストの2人がいる、という状況です。
東京四ツ谷スタジオのことを、「リモート」といい、福岡いいかねPaletteスタジオのことを「スタジオ」という言葉で統一します。

システム図

まずは、いいかねPaletteスタジオの常駐システム図はこちらです。

図1
  • DAW用PC:Mac Pro(DAW:Cubase 8.5)
  • Audio I/O:Apollo 16
  • MicPreAmp:Vintech 473
  • Monitor Controller:CRANE SONG Avocet II A
  • CueBox:BEHRINGER POWERPLAY P16セット

で、今回リモート立ち会いに向けて、色々と試行錯誤してできたシステムが、以下のとおりです。

図2

結局、図1に加えて、以下の機材を追加しました。

  • Zoom通話用PC:MacBook Pro
  • MacBook Pro用オーディオインターフェース:Komplete Audio 6
  • LINE通話用スマホ:iPhone

そして、ブースは使わず、エンジニアがいるコントロールルームでボーカリストに歌ってもらいました。

スタジオとリモート間の通話のシステムには、LINEとZoomを使用しました。
ディレクターが喋った音声は、リモートのPCからLINE通話を通じてスタジオのiPhoneに送られ、DAWに入ります。
スタジオにいるエンジニアとボーカリストは、その音をCueboxに刺さったヘッドホンで聞きます。
エンジニアとボーカリストの声は、TBマイク(今回はSM58を使用)とRec用マイク(今回はaudio technica AT4040を使用)を通じてDAWに入り、
DAWのMain out → リモート用Cuebox → Zoom用PC → Zoom → リモートのPC
という経路でディレクター(リモート)に届きます。

本来、Zoomだけで完結できればよかったんですが、
Zoomの設定がなぜか上手くできず、結局、リモートの音声をスタジオで受信するためだけに別途LINEを使いました。

ちなみに、Audio I/OのOutの1ch、2chはメインアウトとして使用し、モニコンのスルーアウト経由でCueboxの1ch、2chにも繋がっています。
Outの3ch〜8chはCueboxの各チャンネルに繋がっています。
Cueboxに送る場合は、DAW内各チャンネルのSendからPreフェーダーで出し、Audio I/Oのパラアウト経由で送ってます。
また、Audio I/Oについているダイレクトモニタリングシステムは一切使っていません。DAW内のモニタリングボタンによるモニタリングシステムのみで構築しました。レイテンシーが気になるなら、ダイレクトモニタリングでもいけるはずですので試してみてください。

映像について

リモートのWebCam→スタジオについては、Zoom同士でOK。
スタジオのWebCam→リモートについても、同様にZoomでOK。
DAW用PCの画面→リモートについては、DAW用PCからZoomのルームに入り、音声はオフってDAWアプリの画面だけ送りました。

DAWトラック構成

DAW内の最低限必要なトラック構成はこんな感じです。

  • 01:エンジニア用TB
  • 02:リモート用TB
  • 03:インスト2mix
  • 04:Vocal Rec用

トラックについて一つずつ補足します。

【01:エンジニア用TB】
エンジニアからリモートに声を送るためのトラック。
録音待機:Off、モニタリング:On、MainOutに送り、Sendはなし。
このトラックの音は、Main Out経由でZoomを介してリモートに送られる。

【02:リモート用TB】
リモートからiPhoneのLINE経由できた音をスタジオの二人が聴くためのトラック。
録音待機:Off、モニタリング:On、MainOutには送らず、SendからCuebox 4chにのみ送っている。
理由は、MainOutに送ってしまうと、リモート側にリモートの声が遅延して返ってしまうから。

【03:インスト2mix】
歌入れ用のトラック。
録音待機:Off、モニタリング:Off、MainOutに送り、Sendはなし

【04:Vocal Rec用】
録音待機:On、モニタリング:On、MainOutに送り、SendからCuebox 3chに個別に送っている。

クリックはCuebox 8chに送っていて、エンジニアとボーカリストだけが聴けて、リモートには送らない設定。

システム説明は以上です。

ちなみに、このシステムを考える前に、まず最初にCubase純正機能でリモートレコーディングが出来ると噂のVST Connectってやつを使ってやってみようと試みましたが、チュートリアル通りにやっても上手く行かず、さらにネットで情報を探しても、使っている人がよっぽどいないのか、全く情報がでてこず。
泣く泣く自作でシステムを考えることになり、ここに至りました。

課題点

この自作システム、ほぼほぼいい感じなんですが、難点が何個か。

1,使う機材の量が多く、煩雑。
これは結構ネックです。配置や接続に時間がかかるし、ミスも多くなるし、設定する部分が多く、全体像を把握するのに時間がかかってトラブルに対応しにくい。

2,ネット回線の都合で、たまに音質が悪くなる
最初Google Hangoutを使ってたんですが、結構ひどかったらしいです(僕はリモートの音を聞けてないので、ディレクターの所感)。HangoutからZoomに変えてかなりマシになったらしいですが、それでもちょくちょくまともに聞けないくらい音質が低下するらしいです。

3,リモートのTBのオンオフを、LINEのマイク入力オンオフで代用しなければならない
これは…ある程度しょうがないかもしれませんが、DAWの音がリモートのスピーカーから出ていて、その音がリモートのLINE経由でスタジオに戻ってくるので、スタジオの2人のヘッドホンに、ボーカリストの声やインストの音が遅れて聞こえてしまいます。
RECをしてると、これが邪魔になってとても歌えません。
たとえば、DAW再生中に「02:リモート用TB」トラックのモニタリングが自動的にオフになるっていう機能がDAW上にあったら解決するのかもしれませんが、Cubaseの設定画面にはみつかりませんでした。


以上です。
本来なら、LadiocastとSoundflowerを使ってゴニョゴニョやれば、ここまで複雑なシステムを作らなくても良いような気もするんですが、試行錯誤を繰り返してもうまくいかず、結局、スタジオ側でCuebox3台、PC2台、iPhone1台を使用するシステムになってしまいました。
ただ、リモート側の設定は意外とシンプルです。PC一台で、アプリもLINEとZoomだけインストールすればいけます。
ディレクターとエンジニアだと、エンジニアのほうが機材やITに対するリテラシーが高い場合が多いので、エンジニアが頑張りさえすれば遠隔RECが可能だというのは、凄く良いです。

リモートレコーディングがスムーズに出来るかどうかで、音楽制作業界の可能性が大きく広がると思います。
これを機に、是非みなさまもやってみてほしいです。
そして、僕のシステムよりも良いシステムがありましたら、必ず独り占めせずに情報をシェアして下さい!
「どこでもできる世界」へのパラダイムシフトを起こし、ともにレコーディング業界に革命を起こしましょう。
お願いします!


【追記】
ZoomでリモートからスタジオのDAWを操作したら面白そうですね。

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