小学校6年の頃の話です。
当時仲の良かった友人の中島くんと、肩と背中のマッサージをし合うという遊びが流行っていた時期がありました。
最初は、交互にマッサージをしあってたんですが、徐々に、
お互いのなかで、「マッサージをされるときは気持ちいいけど、する側に回るのは面倒だな…」という雰囲気になってきました。
そこで、中島くんから、提案がありました。
それは、当時クラスで流行っていて、みんな持っていた「ドラゴンボールのメンコ」を一つ僕に渡すかわりに、
交互ではなく、一回ぶん多く、5分間マッサージをしてほしいというものでした。
当時の小学校はお金を持ち込んではいけなかったのです。
中島くんの提案に対して、僕は拒否しました。
なぜなら、僕はドラゴンボールのメンコに全く興味がなかったからです。
そこで、逆に僕は提案しました。
「じゃあシャーペンの芯5本くれるならいいばい」と。
なんでそんな事を言ったのかは忘れました。手持ちの芯が切れかけていたのかもしれません。
メンコ一枚にたいして、シャーペンの芯は安いので、
もちろん商談は成立し、僕はシャーペンの芯5本をもらい、5分間のマッサージをしました。
そしてその次は、逆に僕が中島くんに逆オファーをしました。
「シャーペンの芯5本で5分お願い」です。
中島くんからすると、これを断るわけには行きません。もちろん快く承諾してくれました。
そのとき、僕と中島くんの間で、シャーペンの芯5本が、マッサージ5分間分の労働と同等であるという、何の根拠もない基準ができました。
それからというもの、
「給食のおぼんを洗う係を委託するかわりにシャーペン10本」だとか、
「休み時間に遊んだボールを片付けてもらうかわりにシャーペン2本」だとか、
「なんでかわからんけど、肩を思いっきり殴らせてくれたらシャーペン15本」といったルールが徐々にできてきました。
もちろん数字まで正確に覚えているわけではなく、おおよその数字ですが、
とにかく、めちゃくちゃ楽しかったのを覚えています。
ある日のこと。僕のケースから、シャーペンの芯が1本もなくなりました。
家に帰って親に報告すると、新品の40本入りのシャーペンの芯をもたせてくれました。
次の日、いつもどおり中島くんと遊んでいて、何かをしてもらった事への対価をシャーペンの芯で支払おうと、
パンパンに芯が入ったケースからシャーペンの芯を出そうとした時、
僕の頭の中に、疑問が浮かんできました。
「これ、家からシャーペンの芯をいっぱい持ってきたらどうなるんやろ…?」
ということです。たしか、当時のシャーペンの芯の値段は40本で100円しないくらいだった気がします。
それ以前に、わざわざ自分で買わずとも家に親が買いだめしてるストックが、いっぱいあります。
芯をたくさん用意すれば、芯にモノを言わせて、何でもしてもらえることになります。王様になれます。
それに気づいたとき、強烈に心が冷めてしまったのを覚えています。
魔法が解けたように、何も楽しくなくなったのです。
その後、「シャーペンの芯を価値基準にした経済ごっこ」という遊びは終わりました。
そして中学に入ると、普通に財布の中にお金を入れて持ち歩くようになりました。
今日、なんとなくふと思い出したので、書いてみました。
中島くん、今は家族と一緒に栃木県に住んでるらしいんですが、元気しちょうやか。